分かっては、いるつもりだった。
刀を取った時から、この道を歩んでいくと決めた時から、覚悟は出来ていたはずなのに。
それが必要な事ならば、相手が天人だろうが人間だろうが斬ってきた。
それこそ男でも女でも老人でも子供でも。
こども、でも。
気付いていたんだけど、避けようと思えば簡単だし、首をはねることも出来たのに、私は動けなかった。
動かなかったんじゃ、ない。
一番隊が担当の任務、攘夷志士との交戦中、物陰から飛び出して来た一人の少年。
手には、どこからか拾ってきたのだろう(何せソレが必要でなくなった死人はいくらでもその辺に転がっているから)刀を握り締めて。
私が、いや私達が、刀を振るうのは、近藤さんが、真選組が大切だから。守りたいから。
戦闘中は自分の命は自分で守る。
下手に怪我して仲間に迷惑はかけたくない、と思っていたのに。
「さん!!」
「!」
「!?」
その子供が、先日私が手にかけた攘夷志士の夫婦の子供だったから。
もちろんあの時一緒に始末しなかった私のミスなんだけど。
刃が迫ってきて、あ、ヤバイと思った、
「う゛、ぁ…」
「!…そ、ご…」
目の前にいたはずの少年は峯打ちを受けて倒れており、私の目に映るのは珍しく息を切らした総悟、私の隊長だった。
私は少しだけ呆然としていたけど、はっと気付くと慌てて剣を構え直した。
「沖田隊長、全ての標的の確認終了しました!取り逃がした者はおりません。」
「…おぅ」
総悟は報告しに来た隊士に下がっていいぜィと言うと、退に手当てしてもらっていた私の方へと歩いてくる。
間一髪で総悟が助けてくれたものの、僅かだが刃が腹をカスめた。
「…どーでィ?具合は」
「…カスリ傷だから…」
「…そーかィ、で、」
何で避けなかったんでさァ?と問うてきた。
「…」
「アンタが刺されればあのガキの気が済むなんて馬鹿なこと、思っちゃいねーだろ」
「…はい」
それは思ってない、そんな甘いモンじゃないんだ、人の命を奪うっていうのは。
「じゃァ、どーしたんでィ。理由言ってみな」
「…、昔の、私みたいだったから、」
「!…」
あの、怒りと悲しみで、震える手で慣れない刀を握る恐怖で満ちた顔が、姿が、昔の私に、似ていたから。
「…ごめんなさい」
「…このバカ」
「!沖田隊ちょ、」
周りで見守っていた隊士が声をあげ、反射的に殴られる!?と思ってぎゅっと目を瞑ると痛みが走ったのは額で。
「いっ、」
「デコで済ませてやらァ、感謝しな。…いいか、」
「?」
「人はいつか死ぬ。だから死ぬなとは言わねェ。だがな、」
総悟はしゃがんで、座っている私と目線を合わせる。
「お前が絶対死んじゃならねェ場合が2つある。1つは、自分より弱いヤローに殺られる事。今回はまさにこのパターンだな」
「…はい」
「んでもって2つ目は、…俺の居ねェ所で死ぬ事」
「!」
「…間に合わなくて、悪ィ」
そう言ってそっと私の脇腹に触れた総悟の手は、少しだけど震えてた。
「…総、…沖田隊長」
「…何でィ」
「さっきは本当にすみません。…助けて下さってありがとうございます」
「…何度だって助けてやらァ、だからどこへも行くな」
なんだか涙が出そうになって、必死で堪えた。
(ありがとうありがとう、一生貴方の側にいます)
沖田side→22腹