人生は短い。だから人は出来るだけ良事をし、そこから何かを得なくてはならない。

 

歩きながら今朝読んだ本の名は何だったか、と考えた。それは確か本について書かれていた気がするのだけれど、著者もタイトルも思い出せない。人生は短い。だから人は出来るだけ良書を読みそこから何かを得なくてはならない。良書を読むためには悪書を読まない事だという。私はそれは別に本だけに限らずそのまま人生にも言える事だと思うのだ。「良事をするためには、悪事をしないこと」。もっとも、価値観なんて人それぞれだし、良事と悪事の境界線なんて個人が引くものだ。だから例えば一般人にとっては「マフィアだろうと何だろうと、標的が極悪人だろうとそうでなかろうと、人殺しは人殺し。マフィアは罪人なり」という事でも私達にとっては「殺しは仕事。よって任務を遂行したならそれは良事」という事だ。だから一般人は朝起きて仕事をし、食事をし、時に恋人と逢ったり友と遊び、マフィアを恐れ否定し警察を信用して普通の生活を送り、そこから何かを得ればいい。彼等にとってそれが良事ならば私達になんの関係もない。否定、批判をしたいなら勝手にすればいい。但し、するなら匿名ではなく本名を提示し、堂々と顔を見せて、だ。匿名で人前に姿を見せず批判だけなんて卑怯きまわりない。それこそ悪事だ。命を賭けて主張しろ、怖じ気付くなら初めからするな。そして私達マフィアは、朝起きて任務をし、食事をし、時に恋人と逢ったり友と遊び、マフィア批評家を否定し警察をけなす生活を送り、そこから何かを得ればいい。私達にとってそれが普通の生活であり、良事だからだ。

何故私が今この様な普段考えもしない事を考えているのかというと、少々面倒な事に巻き込まれかけているから。そうでなければこんなに客観的に物事を考えたりしない。何故なら人は普段主観的にしか物事を正確に考えられないからだ。それで、その面倒な事は何かというと、私を付けてる者が居る事。おそらくマフィア否定派の者だろう。私は全く彼等の考えが理解できない。人殺し、と唱えてる癖してそのマフィアを殺そうとしているのだ。結局、自分も人殺しじゃないか。まぁ彼等にとってそれは良事なのだろうけれど。そしてもう一つ理解できないのは、たった一人で私を殺せるとでも思っているのか、という事。女だからといって偏見は良くないと思う。あなたの命が賭かっているのだから。彼一人くらい何時でも殺せるけど、それをしないのは彼の後ろ、少し離れた所から私服警官が一人、様子を伺っているからだ。おそらく彼は「誰であろうとどんな理由があろうと人殺しは絶対に許せない派」だろう。でなければこんな状況に自ら飛込んで来たりしない。つまり私は私を付けてるヤツを殺すと、ついでに私服警官にも手をかけなければならなくなる、という事で。もっともそれは簡単な事だから何も問題ないのだけれど、私は少しだけ、自らの命を賭けてまで己の正義を貫こうとするあの若い警官を殺してしまう事を、ほんの少しだけ勿体なく思ったのだ。今の警察は本当に役にたたない。銃の扱いは下手だし、いくら大変重大な事件でも手におえないと上が判断すれば下っぱは何も出来ずにそれは迷宮入りになる。マフィアを否定しておいて、殺人犯一人ろくに逮捕出来ない。三日前ミラノで起きた女児誘拐事件は解決したか?二週間前のローマ郊外で起こった殺人事件の犯人は見付かった?…全く、世の中の為にこれっぽっちもなってない。私が言えた事じゃないけど。どちらかと言えば私達マフィアの方が世の悪人(世間から見て)を消して平和に貢献している事もあるのではないかとまで思ってしまう程。だから私は、私にとっては大変迷惑な話だけれど、死を恐れずに自ら厄介事に首を突っ込んできた勇気あるあの警官を殺してしまう事を残念に思ったのだ。もしかしたら勇気があるのではなく只の馬鹿なのかもしれないがどのみちその精神は大した物だと思う。だからといってこのまま何も行動を起こさずにいれば私を付けてるマフィア否定派に攻撃を喰らいかねないしあの警官は私と否定派、どっちがどっちを殺そうとしても更に首を突っ込んでくるはずだから、つまりは私か否定派の男、どちらかに殺される事になる。もちろん、それは私だろうけれど。だって私がどちらにも殺られる訳ないじゃない。私だってまだ死ぬ訳にはいかないのだから。

 

歩き続けながら私は今朝読んだ本の名は何だったか、と考えた。元々私はあまり読書が好きではないから、気が向いた時に読むくらいなのだけれど。普通は寝る前に本を読むと頭が冴えるモノらしいけど私は全く反対でほんの2、3頁読めば眠りにつける。そんな私が珍しく朝の暇な時間にもそれを読んだのだけれど、タイトルも覚えてないなんてよっぽど記憶力がないのだろうか。

ふと顔をあげると、前方によく見知った人物が立っていた。…あぁそうだ、本の著者とタイトル。やけにゲーデとギリシア、ローマの古典愛していたショウペンハウエル『読書について』。何故彼の顔を見てそれを思い出したのか分からないけれど、私はモヤモヤしていたものが一気に晴れてとても爽快な気分になった。彼が少し笑ったかと思うと私の左右をナイフが綺麗に飛んでいって、後ろで二つ、鈍い音がした。振り返らなくても、分かる。

「…何やってんの」
「…ベル」

私が彼の所まで行くとベルもきびすを返して、二人肩を並べて歩く。

「何ちんたらしてんの。らしくないんじゃん?」
「うーん、…ちょっと考え事?」
「んな事してて殺されたりしたらシャレにならないっつーの」
「あはは…ありがと」

なんとなーく、そういう気分じゃなかったんだと言うとバカじゃね?と返ってくる。あまりごちゃごちゃ考えたところで仕方ないのだけれど。結局、私が生きる為にはあの二人は死ななければならなかったのだ。理由は、私がまだ生きたいという意思を持っていて、あの中で一番強かったから。もっとも、あの二人を手にかけたのは私ではなくベルだったけれど。

「今更んな事考えたって仕方ないんじゃね?強いヤツが生き残んのはあたりまえだし」
「…ベルにとって強さの基準は何?」
「"どれだけ自分が可愛いか"」

全く、彼らしいと思う。何時だって世界は弱者が蹴り落とされるのだ。強者に。結局人間、自分が一番可愛いのだ。

「あ、でも俺はちゃんとも愛してあげてるから安心してよ」
「…出来んの?」
「あたりまえじゃん。だって俺王子だもん」

意外な言葉が聞けて少し驚いたけど嬉しくて笑った。歩き続けながら、明日は何の本を読もうかと考える。…久しぶりに、ラブストーリーなんて、どうだろう。下らなくて汚い世界。けどそう簡単にベルの隣を誰かに譲る気なんてないから、私は生きようと思った。

 

自己愛主義者の

 

勝る世界そしてそれは不変だ。今までも、そしてこれからも

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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久しぶりにベル夢です。自己愛主義者って思い付いて、誰にしようか迷ったんですが彼が一番しっくりくるかと思い。

…もっと黒くて硬い感じにしようと思ったんですが、白いベルと言う事で。(え)              (070128)