「いいよ僕を撃って」

その言葉を聞いた時、世界が真っ白になったんだよ

 


君がため惜しからざりし命さへ

 

 


「式部副隊長、こちらが新居になります」

「ありがと」

そう言えば前の家と比べてちゃんの家と近くなった気がする。

…会いたいなぁ彼女に。

そんな事を思いながらドアを開ける。

瞬間、中から何かが飛んでくる気配を感じて反射的に避けた。

ソレは「そう言えばさーさっき"目の部屋"にも居たんだよね。だから副隊長、覚悟しておいた方が…うぉぁ!?」とか言いながら僕の後ろに居た柏原班長の

頬をかすめて壁に突き刺さる。

「…そういう事は早く教えて欲しかったなぁ」

ソレ-鞘に収まったままのナイフ-は本当に怪我をさせない様気遣ったのかもしれないけど、壁に突き刺さるほど強く投げたら意味が無いと思う。

そしてこんな芸当、きっと彼女にしか出来ない。

 

ドアを全開にすると、暗闇の中僕に向かってニッコリ笑う人が立っていた。

「おかえりなさいv清寿」

「…、ちゃ…」

けど明らかにその微笑んでいる顔には“怒りマーク”が浮き出ていて、本気で怒っているのが分かった。

(ヤバ…って事はさっきの事件知ってるんだよね…ちゃんが本気で怒ったら笑太くんより恐いんだよ…)

 

どう声をかけようかと言葉を選んでいると僕より先に、柏原班長が口を開いた。

「って!!お前今俺狙ったでしょ!?」

「いえいえ別に。さっき一緒に連れて行ってくれなかった仕返しなんて思ってませんよ」

「やっぱ仕返なんじゃん!!てかどーやってココを…」

「ああ、何か新居の準備する人たちが車で出てったの見えたから」

「…車の上に飛び乗ったのか?」

「…」

「目をそらすなよ…」

「うっさいこの童顔!!」

「何だとこの背高のっぽ!!」

二人の言い合いが終わったかと思うと今度は新居を案内してくれた他の捜査班の人が恐る恐る尋ねる。

「あ、あの鍵は…どうやって中に…?」

「や、ピッキングとか朝飯前なんで…」

「技術の無駄使いすんなっ!!」

相変わらず目をそらして答えるちゃんに柏原班長が再び声をあげてこの会話は一旦幕を閉じた。

ちなみに彼女の言うピッキングはドライバーとかでやるんじゃ無くて、カードキーだろうがオートロックだろうが例え暗証番号でも開けてしまうような

レベルの話。で銃の次に得意とするモノなんだよね。

「班長、そろそろ…」

「ぉ、おう!…じゃぁ後は二人で何とかしなよ?おやすみ」

「あ、おやすみなさい」

「おやすみ」

二人で手を振り、パタンと扉を閉める。否、僕じゃなくて彼女が。

 

 

 

室内は薄暗くて、唯一窓から差し込む月明かりだけが頼りに出来る証明。

そのおかげでが泣きそうな目で睨んでいるのが分かった。

ちゃん…ごめ」

「…っのバカ!!」

 

部屋は薄暗くてさっきとは比べられないほど静かで唯一の月明かりも、雲がかってしまって余計に暗くなる。僕の、こころ、みたいに。

 

ずっと想ってた君が失恋した時に泣かせない、と約束してをやっと手に入れたのに。

たったの三ヶ月で、それを破ってしまった。

あの時は本当に何もかもがどうでも良くて、一ヶ月位何も考えずに眠りたい、なんて嘘。一生だって良かった。

けれどやっぱり頭の片隅では彼女の事が気になって、もう一度会いたいとか思ったんだ、本当に。

それは今までの僕には考えられない事で、そんなにも彼女は僕にとって大きな、大切な存在になっていたのに。

 

 

「…あの瞬間、自分の事なんて考えてなかったんでしょ」

「…ちゃんの事なら、考えたよ」

「嘘。そんな嘘いらないわ」

「嘘じゃないよ。…確にあの時、本当に撃たれてもいいと思った。

 けど、死んじゃうかも、って思った時、…ちゃんに名前呼んで欲しいなぁって。思ったんだ」

 

そう言った瞬間、ちゃんの瞳から涙が溢れて辛そうに顔を歪ませて、思いきり僕に抱きついてきた。

 

「そーゆートコがバカだって言ってるの!!一人で何でも背負って!!あの子の親だって、たまたま第一が担当しただけじゃない!!」

「…うん。ごめんね」

あえて“約束破ってごめん”とは言わなかった。

彼女は優しいからソレに怒ってるんじゃなくて僕の心配をしてくれてる、って分かるから。

 

「…それと、死に際に名前なんて呼んでやらないから」

「…え?」

「…っ!死ぬ時は一緒よ!!」

ぱっと顔をあげた彼女と目が合う。

涙で濡れた瞳と頬がいつの間にか雲が晴れて再び部屋に差し込む様になった月明かりに照らされてキラキラ光っていて

不謹慎にも綺麗だと思った。

 

「だから、もう一人で悩まないで」

「…うん。…ありがとう」

また謝るより心配してくれたちゃんにお礼を言いたくて、気付いたら口に出していた。

そうしたらちゃんは一瞬驚いた顔をしたあと、うん、と言ってすごく綺麗に笑った。

 

 

「…清寿」

「うん?」

「…おかえり。生きててくれて、ありがとう」

顔を赤らめながらそんな風に笑うちゃんがどうしようもなく愛しくて、いつも欲しい言葉を惜しむ事無くくれるその唇に、長く長く、口付けた。

 

部屋はまだ薄暗くて証明は相変わらず月明かりだけで、けれどそれはさっきに比べてだんだん明るくなっていく。…僕の、こころ、みたいに。

 

 

 

 

 

 

 

「御子柴隊長、式部副隊長の姿が見えないのですが」

「あー何か今日休むらしいぜ、あのバカ。つー事で今日は俺ら二人で頑張ろーぜ羽沙希」

「…はぁ」

「気になるなら“目の部屋”行ってみろ。…まぁ人だかり凄いらしいけどな」

「…?」

翌日、式部の部屋ですやすやと仲良く抱き合って幸せそうに眠る二人の姿が“目の部屋”を通してまたたくまに噂で広がり、

二人が付き合っていたのを知らなかった清寿ラブの女とラブの男達が大量に失恋したらしい。

…最初に噂を流したのは柏原だったが。

「ま、今日くらい多目に見てやろーぜ。安眠なんて久しぶりだろ。清寿もも」

「…はい」



君がため惜しからざりし命さへ

 

 

 


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 清寿夢です!!拍手で式部夢読みたいと匿名リク(って言って良いのでしょうか…?)して下さった方に捧げます!!ありがとうございました!! 

タイトルは秋山が好きでつけてしまいましたが、ちゃんと訳すと全然関係無いですよね…すみません深くツッコまないで下さい…。

                                                          (061003)