番外 ある日の午後のこと
「伊東さーん!お茶お持ちしましたァ!」
トタトタと足音が近付いてきて、廊下の角からぴょこ、とが顔を出した。
縁側に腰をかけていた伊東は視線を空からへと移すと、少し困ったようにすまない、と言った。
あの事件が終わって大分経つが、なかなか慣れないことが多い。
例えば今のようにお茶一つ出されても、うまく礼が言えないのだ。
うまく、笑えない。
というか笑っていいのか分からないのだ。
自分がしたことを思うと、ここに居て良いのかさえ分からない。
もっとも、それも言い訳にしているのかもしれないけれど。
「今日はお茶菓子もあるんですよー」
すとん、と伊東の隣に座るとお盆の上に乗せていた団子を差し出す。
ちょっと奮発しちゃいました、と付け加えて。
確かに団子は高価そうな香りもしたし、味も美味しかったのだろう。
けれど実際、伊東には良く分からなかった。
…そんな余裕が、ない。
「…腕の具合いは、どうですか?」
「!」
ふいにかけられた声に意識を戻すと心配そうな顔が目に入った。
…何故。
「…すまなかった」
「え?」
すまなかった、じゃすまされないのに。
そんなこと分かってる、分かってるけど、他に知らないんだ、
何をどうやって伝えればいいのか、どうすればいいのか、その術を、知らないのだ。
「…君にも、申し訳ない事をした」
それは消えてしまいそうな声だったけれど、は伊東が言わんとしていることを察した。
「…大丈夫ですよ、私大したことしてませんし、怪我も全然大丈夫ですし!」
だから大丈夫です、うつ向いてしまった伊東にゆっくりと良い聞かせるように呟く。
「それにね、私、伊東さんが生きててくれて良かったと思ってるんですよ」
空を見上げたにつられて伊東も顔をあげた。
「なんだかんだ言って、皆伊東さんのこと好きだったんですよ?」
もちろん私もです、と付け足して笑う。
「…しかし、僕はそんな君達に…」
「でも、見付けたんでしょう?大事なものを」
「!」
「大切なものって、失ってから気付くんです。でも伊東さんは、失う前に気付いたじゃないですか」
「…」
心地好い風が二人の間を駆け抜ける。
もうすぐ、夏だなぁ、そんな事を思いながらは目を閉じた。
「私、真選組の皆が大好きです。大事です」
「…」
いつの間にか伊東の視線の先は、空を見上げるの横顔になっていた。
自分を励まそうとしてくれる彼女は、とても意思の強い瞳をしていて。
「でもこんな仕事だから、命を落とす時もあるでしょう?」
「…」
でもね、そう言って伊東のほうを向いた。
「自分の命に換えても、皆を守るって、そう皆が思っていたら、誰も死なないじゃないですか」
「!」
上手くいかないときも、ありますけどね。
少し無理矢理だけど、私論です。
そう言って綺麗に笑って見せた。
「あ、そろそろ土方さんにもお茶もってかなきゃ!!」
思い出したように立ち上がると慌てて自分の湯飲みを片付け始める。
「では失礼します!安静になさってて下さいね!」
そう言ってきびすを返したに、伊東が声をかけた。
「何ですか?」
「いや、…その、」
「?」
「…ありがとう」
「!…どういたしまして」
あ、私の分のお団子もどうぞー。
その声と共に廊下の向こうへと走っていった。
トタトタという足音が、遠ざかってゆく。
伊東は空を見上げると、団子に手を伸ばした。
今度はちゃんと味がしたけど、少ししょっぱくも感じた。
ある日の午後のこと
空を見上げて誓おうじゃないか
両足片手があれば、また剣は握れるさ
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やっちゃいましたよ、伊東夢(?)
まだ原作途中なのに、捏造です。汗
でも今週のジャンプ読んだらどうしても書きたくなって…
マイナー?なものですがお読み下さりありがとうございました!原作沿いの方も追い付くよう頑張ります (070521)