第十四訓 友達ってのは自然と出来るもんだ
初めて人を斬った事も、もう曖昧な記憶しか無い。
戦争に参加してた時も、今も、もうソレが日常だから。
人の命を奪う事に慣れはしないけど、迷ったらこっちも終わる。
だから、やっぱりこの手は汚いと思っていた。
…見えない血が、永遠に落ちることの無い血が絶えずこびりついていると、思っていた。
…なのに。
「あ!!!」
「!神楽ちゃん!」
銀ちゃんと再会してから一週間程たったある日、夕飯の買い出しをしに出かけると神楽ちゃんに会った。
今日は銀ちゃんも新八くんも居なくて、代わりに大きな犬を連れている。
「可愛いワンちゃんだね!」
「そうアル!!定春って言うネ!」
触っていいと言われたから、首のあたりを撫でてみる。
わ、ふわふわだ。
何でも、万事屋の前に捨てられていたというか、貰ってくださいという依頼というか、とにかく万事屋の新しい家族らしい。
屯所にもたまに野良の猫とか犬とか来るけど、こんな大きい犬は見るのも初めてで。
「これから何処行くアル?」
「えっと、大江戸ストアまで…」
「なら定春に乗ってくヨロシ!」
「え?乗れるの?!」
神楽ちゃんと二人で背中に乗れば定春くんが走り出す。
ふかふかしていて、乗り心地も良い。
いつもの半分くらいの時間で目的地に着いてしまったので、少し公園に寄り道する事になった。
「定春いつも銀ちゃん達には噛みつくアル。けどにはなついてるネ」
「そうなの?ふふ、嬉しいな」
公園の入り口で定春くんから降りてまた撫でるとペロ、と頬を舐められる。
本当は、撫でるのも少し戸惑っていた。
定春くんが真っ白だから、余計。
あたしの手も、初めは真っ白だったのかな、なんて。
今は赤黒いな、なんて。
「あ!ブランコ乗るアル!行くヨ!」
「っ!」
なのに、この子は、神楽ちゃんは、何の躊躇もなくあたしの右手をひいて走り出したんだ。
些細な事だったけど、それが凄く嬉しかった。
「の手は人を殺すための手じゃないネ 誰かを護るための手ヨ」
「……」
「…でも私の手はそうだったから、だから私は自分と戦うアル」
「…うん」
あの後、ブランコに乗って夕焼けを見ながらした会話も、ちゃんと覚えてるよ、神楽ちゃん。
「…はぁ」
あのえいりあん事件から今日で二日目。
は縁側に座り溜め息をついていた。
あの後真選組は事故処理に追われていたし、
利き手の方の肩では無いとはいえ、怪我を負っているを近藤と土方が市中見回りにも出さなかった為、は屯所から出る機会がなかった。
がえいりあん相手に戦った事も、それで負傷した事も、テレビで放送されているのだ。
もしかしたら譲夷浪士も見ているかもしれない。
も真選組だ。恨みもそれなりに買っているし、そんな時に外に出すのは危険だ、という事で最低五日は屯所内だけで仕事をすることになったのだ。
「…あたしそんなヤワじゃないのに」
当の本人はそれが少し不満なようで。
心配してもらえるのはありがたいが外に出ない限りは何の情報も得られない。
が一番気になっている事は、神楽が帰ってしまったのかどうかという事。
やはり親と一緒にいる方が幸せなのかもしれない、けど、出来れば行かないで欲しかった。
もっと一緒に遊んだりしたかった。
「……」
「何ぼーっとしてんだ」
「!!…土方さん」
驚かさないで下さいよ、と付け加えて。
土方もの隣に腰を下ろした。
「ねぇ土方さんあたしもう怪我大丈夫ですから見回り…」
「駄目だ」
「……ちぇ」
気になるのは気になるが、だからといって他の隊士に神楽の事を調べてきてほしいと頼む事も出来なかった。
只でさえ皆忙しいのに私事で手間を取らせるわけにもいかなくて。
「じゃぁせめて買い出しに…」
「ちゃん!!」
「?」
買い出しに行かせてください、と言い終わらないうちに山崎が走ってやって来た。
「お客さん!会いに来てくれたみたいだよ」
「??」
誰の事か分からないまま妙に笑顔な山崎の後をついていく。
後ろを振り向くと土方が"いいから行け"と目で言ってきた。
促されるまま玄関に出ると…
「!!」
「! 神楽ちゃん!!」
その後中々から離れない神楽を迎えに銀時と新八が来て、なんやかんや喧嘩しながらも皆で一緒に夕飯を食べたのは、また別の話。
END・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
という訳で神楽との友情夢でした!
流石にアレだけの説明で次の話に行ってしまうと薄っぺらい話になってしまうかな、と思い。(あんま変わらないよ) (070227)