第十訓 「後で後悔する」って日本語的におかしいから 2
「まあまあ遠慮せずに食べなさいよ」
「…何コレ?」
「銀ちゃんごめん」
「旦那すまねェ 全部バレちゃいやした」
ここはでにぃず。沖田、土方の向かいに、銀時が座っている。
そして、四人の前にあるのはカツ丼。
に大量のマヨネーズがかかっているモノ。
「イヤイヤ そーじゃなくて何コレ?マヨネーズに恨みでもあんの?」
「カツ丼土方スペシャルだ」
「こんなスペシャル誰も必要としてねーんだよ オイ姉ちゃんチョコレートパフェ一つ!」
さっそくカツ丼土方スペシャルを拒否る銀時。
「お前は一生糖分とってろ どうだ総悟、 ウメーだろ?」
「スゲーや土方さん カツ丼を犬のエサに昇華できるとは」
「流石土方さん 見事にカツ丼が台無しですね」
文句を言いながらも食べられる沖田とは凄いと思う。
「…何だコレ?おごってやったのにこの敗北感… …まぁいい本筋の話をしよう」
土方は煙草を消すと話始めた。
「…テメー 総悟とにいろいろ吹きこまれたそうだが アレ全部忘れてくれ」
「んだオイ 都合のいい話だな その感じじゃテメーもあそこで何が行われているのか知ってんじゃねーの?」
ピンッ、と鼻をほじっていた指を弾く。
「大層な役人さんだよ 目の前で犯罪が起きてるってのにしらんぷりたァ」
「いずれ真選組が潰すさ だがまだ早ェ 腐った実は時が経てば自ら地に落ちるもんだ…
てゆーかオメー土方スペシャルに鼻クソ入れたろ誤れコノヤロー」
土方スペシャルを食べながら続ける。
「大体 テメーら小物が数人はむかったところでどうこうなる連中じゃねェ 下手すりゃウチも潰されかねねーんだよ」
「(土方さん…やっぱり)」
「土方さんアンタひょっとしてもう全部つかんで…」
「…近藤さんには言うなよ あの人に知れたらなりふり構わず無茶しかねねェ」
もしかしたら、とは思っていたか、やはり土方は今回の事を既に把握していたのだ。
「天導衆って奴ら知ってるか?将軍を傀儡にし この国をテメー勝手に作り替えてる この国の実権を事実上にぎってる連中だ…」
そして、警察のトップの上に居るのも。
「あの趣味の悪い闘技場は…その天導衆の遊び場なんだよ」
鬼道丸が殺された。
それを知ったのは、翌日の朝で。
「嫌な雨」
「…すいやせんさん」
「…だからどうして謝るの。あたしも同罪よ」
朝から雨が降っていた。
沖田とは傘を手に屯所を出る。
「…それにしても、やっぱ土方さん凄いわね」
「…ですねィ」
「…あたしいつかね、"汚れ役"の手伝い出来るようになりたいの。
少しでもあの人の負担が軽くなるように。それがあたしの目標かな」
まだ真選組が結成したての頃に、の言った言葉を思い出した。
「あ〜嫌な雨だ 何もこんな日にそんな湿っぽい話持ち込んでこなくてもいいじゃねーか…」
「そいつァすまねェ 一応知らせとかねーと思いましてね」
「…ごめんなさい」
銀時は外の方を向いたままだ。
神楽と新八も下を向いている。
「ゴメン銀ちゃん」
「僕らが最後まで見届けていれば…」
「オメーらのせいじゃねーよ も、もう謝んな 野郎も人斬りだ 自分でもロクな死に方できねーのくらい覚悟してたさ」
子供達は真選組で引きとりを探すことになっている。
こんな事くらいしか出来ないのが、悔しくて情けない。
もう一度銀時に謝り、出ようとするとー。
「「!」」
ガラと戸が空いて入ってきた者がいて。
それは、あの子供達で。
「!テメーら ココには来るなって言ったろィ?」
「そ、総悟」
銀時が振り向いた。
「…に 兄ちゃん」
「兄ちゃんに頼めば何でもしてくれるんだよね 何でもしてくれる万事屋なんだよね?」
「お願い!先生の敵討ってよオ!」
涙を流しながら叫ぶ子供達の姿に、胸が締め付けられた。
「!」
一人の子供が宝物だと言ってシールを差し出した。
お金は無いが、みんなの宝物をあげると言う。
「いい加減にしろ お前らもう帰りな」
「…総悟」
けど、子供達は先生が自分たちの知らないところで悪いことをしていたことも、それが原因で死んでしまったことも知っていた。
「でもね僕たちにとっては大好きな父ちゃん…立派な父ちゃんだったんだよ…」
その言葉には目を瞑った。
「オイ ガキ!」
「!」
「コレ 今はやりのドッキリマンシールじゃねーか?」
「そーだよレアものだよ 何で兄ちゃん知ってるの?」
「何でってオメー俺も集めてんだ…ドッキリマンシール」
そう言って立ち上がる。
「コイツのためなら何でもやるぜ 後で返せっつってもおせーからな」
「兄ちゃん!」
とたんに子供の顔が明るくなった。
「ちょっ…旦那」
「銀ちゃん本気アルか」
玄関へと向かう銀時に沖田と神楽が声をかける。
「粋狂な野郎だとは思っていたが ここまでくるとバカだな」
「!」
いつ野間に入ってきたのか土方が立っていた。
「小物が一人はむかったところで潰せる連中じゃねーと言ったはずだ…死ぬぜ」
確かにそうだ。でも。
「オイオイ 何だどいつもこいつも人ん家にズカズカ入りやがって テメーらにゃ迷惑かけねーよどけ」
「別にテメーが死のうが構わんが ただげせねー わざわざ死ににいくってのか?」
それでも。
「行かなくても 俺ァ死ぬんだよ」
下を向いていたが、顔をあげた。
そうか、だからー
「俺にはなァ 心臓より大事な器官があるんだよ」
心臓が止まっても、それがあるかぎり自分でいられる。
「そいつァ見えねーが 確かに俺のどタマから股間をまっすぐブチ抜いて俺の中に存在する
そいつがあるから俺ァまっすぐ立っていられる フラフラしてもまっすぐ歩いていける」
また、道を見付けられる。
「ここで立ち止まったらそいつが折れちまうのさ」
銀時が、土方の横を抜けた。
「魂が 折れちまうんだよ」
沖田、新八、神楽も銀時を見た。
「心臓が止まるなんてことより俺にしたらそっちの方が一大事でね こいつァ老いぼれて腰が曲がってもまっすぐじゃなきゃいけねー」
玄関の戸が開き、閉まった。
「…己の美学のために死ぬってか?…とんだロマンティズムだ」
「なーに言ってんスか?男はみんなロマンティストでしょ」
「いやいや女だってそーヨ新八」
子供達の宝物の中にから笛と像のおもちゃを取りだす神楽と新八。
「それじゃバランス悪すぎるでしょ?男も女もバカになったらどーなるんだよ」
「それを今から試しにいくアルヨ」
「!」
「オッ…オイてめーら…」
土方の制止も聞かず二人は出ていった。
「……どいつもこいつも…何だってんだ?」
「全くバカな連中ですね」
「ほんとほんと」
言いながら、おもちゃに手を伸ばす沖田と。
「こんな物のために命かけるなんてバカそのものだ…」
「全くだ俺には理解できねェ ん?」
鼻メガネと太鼓のおもちゃをそれぞれ持って。
「ってお前ら何してんだァ!?どこに行くつもりだァァ!!」
「ごめんなさい」
「すまねェ…土方さん」
「「俺も(私も)またバカなもんでさァ(なので)」」
ピシャ、と戸が閉まり、土方は頭をかかえ溜め息をついた。
NEXT・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
この回の銀さんに何度もやられました…。
かっこいいなぁ、銀さん。 (070207)