あ、鳥の鳴き声が聞こえる。
もう、朝、かなぁ?
本当はもっと寝ていたいけど、確か今日の朝食当番はあたしだった気がする。
「眠…」
呟きながらも目を開けると視界いっぱいに土方さんの寝顔が飛込んできた。
「?…!!」
それを見た瞬間、昨日の出来事を鮮明に思い出してしまって叫びそうになるのを必死で堪える。
落ち着いて自身を見れば、やはり何も身に付けておらず、布団から少し離れた所にお気に入りの寝着は放られていた。
(そうだ…昨日…)
昨日、生まれて初めて、抱かれた。
初めて本気で好きになった、土方さんに。
あたしはよく人から鈍いって言われてきたけど自分でもまさか初夜の翌朝こんなにも落ち着いていられるなんて思わなかった。
(いや実際頭の中は落ち着いてなんてないんだけどね!こう、何ていうか…男の人より先に起きちゃうトコとか、
周りみてようやく情事思い出すとか……やっぱあたし鈍いんだ…)
腰はそりゃちょっとは痛いけど立てないとかそこまでじゃない。
とりあえず食事当番行かないと、と思いそおっと布団を出て寝着へと手を伸ばした。
ここは土方さんの部屋、一度コレを着て自分の部屋に戻ってまた着替えなくてはならない。
袖を通しながら土方さんを起こした方が良いのか考える。
だって流石に何も言わずに出ていくのは感じも悪いし嫌だ…けど最近土方さん忙しくてあんまり寝てないと思うし…。
(あ、そう言えば土方さんの寝顔ってちゃんと見たこと無いなぁ…せっかくだし…)
こんな好機めったに無いと言うことでもう少し寝顔を拝見しようかな…と振り返る、と…
「…はよ、」
土方さんが、起 き て い た !
「…っ!え?おは、おはようございますって何時から起きてたんですか!?」
今度はパニクッた!
流石の"鈍っ子ちゃん"も焦った!
だって振り返ったら寝てるはずの土方さんが起きてて、こっち見てて、ちょっと、笑ってて。
焦る。
焦るよ。
本当何時から起きて…?
「いや、今起きたばっかだ」
そ、そっかぁ良かった
…何が?
「な、なんで声かけてくれなかったんですか!」
「…あァ、…服を着る女の後ろ姿もイイと思ってなア」
「…」
何!?何今の問題発言!!
あたしが帯を締めるのを忘れてその場にぼーっと座っていたら(いやだから頭の中は凄い事になってるんだけど!)
土方さんが「バーカ、冗談だ」と笑って起き上がってあたしの頭を撫でた。
元々そんなに離れてなかったから距離も近くて本当に目の前に大好きな人が、居て。
ほんの一昨日までは、まだ遠かったのに。
あたしは本当に人から鈍いって言われるくらい鈍くて馬鹿だから、今更感動が来てしまったみたいで
何だか涙が出てきてしまいそうで慌てて下を向く。
なんで、こんなに土方さんやさしいんだろう。
いつも皆と一緒に、怒られてばっかなのになぁ。
そしたらすっと土方さんの手が離れていってちょっと寂しかった。
「今日も忙しいからな」
帯ちゃんと締めてから行けよって言って土方さんも着替えだす。
まだあたしはぼーっとしてたんだけど二人ともほぼ裸のままだったのを思い出して慌てて後ろを向いて帯を結びにかかった。
「…体、平気か?」
いきなり話しかけてくるからビクッって肩が上がっちゃったと思う、けど、お互い反対を向いているんだから見られてないハズ…だ。
「だ、大丈夫です、よ?」
うわ声上擦った!てかコレ恥ずかしい!恥ずかしいよ!!
土方さんに言ったら昨日もっと恥ずかしい事しただろが、とか言われそうだ、けど。
「そうか…あ、言い忘れてたけど」
「はい?」
「俺ァこー見えて独占欲強ぇーからな。前みたいに総悟なんかとじゃれてたら何するか分かんねぇから」
「…は!?」
思わず振り返る。
え?何この人そんな恥ずかしい台詞サラッと言ってんの?
あたしが振り返ったのと土方さんが「冗談だ」ってまた笑って言ったのはほぼ同時で、でも土方さんは相変わらず向こうを見て、
もう着替え終わったのかと思ったのに呑気に一服しようとしてるから背中しか見えなかった。
「…そうですか、って!ひ、土方さん!」
「あとその"土方さん"っての止めろ。名前で良いから」
「は、はい!っじゃなくて!せ、背中…」
言ったらまた顔が熱くなった。
だ、だって土方さんの背中の刀傷に混ざって…その、…多分昨日あたしが付けてしまった爪痕が赤く残っていて痛そうで。
「あ?あーこれか」
「ご、ごめんなさい!し、消毒…」
「いらねーよ」
「え?」
「これはが俺を愛してくれた証だから」
…きゃー何コレ何コレ?!
こんなセリフ言ってくれるのドラマか漫画だけかと思ってたのに!!
しかも土方さんまで振り返って言うものだから目が合ってしまった。
ヤバイ。
かお、みれない。
「じ、じゃぁあたし今日朝食当番なんで!し、しつれいします!」
「おう」
そのまま出来るだけ平然を装って部屋を出て、出た瞬間ダッシュで自室に戻った。
「…まぁ、おあいこだしな」
「あ、ちゃんおはよう!」
「お、おぉ!おはよ退!」
台所に駆け込むともう退が下拵えを始めていてちょっと申し訳なくなった。
(今日、一緒の当番退だったんだ…)
「(何かあったのかなちゃん動揺して…)…あ」
「え?」
急に退が声をあげたので見ると顔を赤くして「ちゃん、く、首のトコ…」隠した方がいいかも…よ、
と言われ何の事か分からず壁に架けてあった鏡を覗く。と…
「…え…き、キャァァァァ!?」
首もと。
よりは鎖骨の上あたりに。
点々と赤い跡が残っていました。
…ひ、土方さんのバカヤロー!!
(それはあいのしるし)