「何、してんの?」
「…」
わりと家が集合している通りに、ひとりの少年が座り込んでいた。
声を、かけたのは少女。
「なーにーしーてーるーのー?」
「…」
少女が座り視線を合わせても少年は木の棒で地面にガリガリと何かを書き続け、少女の問いには答えない。
「…あんたどっから来たんでィ」
いい加減自分に注がれる視線にうんざりしたのか、少年が声をあげた。
「あたし?あたしはねー」
「…」
「これから行くとこあるの、西の方」
「…」
「だからここは通り道。昨日北の方から来たんだ」
「…へェ」
わざとまわりくどく話す少女を、少年は少しうざいと思った。
(…何でィ、コイツ)
こっちはそれどころじゃないのに。
まだ自分の事など一つも話していないのに、何故こんなに心を見透かされているような気になるのだろう。
胸がもやもやして。
イライラして。
「…何でそんな遠くまで行くんでィ」
なのに、何故もっと知ろうとしたのか。
いや知ろうと思って言ったのでは無かった。
ただ、気付いた時には勝手に口が言葉を発していたのだ。
「…えっと、」
「…」
「両親が死んじゃって、親戚の家に行くの」
「!」
それはきっととても悲しい事のはずなのに、空を見上げて今日あったばかりの自分にそう告げた少女にどこか強さを感じた。
「君は?」
「…は?」
「何で、そんな悲しそうにしてるの?」
「!」
何なんだ何なんだ何なんだ。
突然ふらっと現れて、勝手に自分を語って、人の心に入り込んできて。
腹がたつ。
胸が苦しい。
…なのに。
「…俺も同じでさァ」
「…そっか」
なのに、また口から勝手に。
なんて、只の言い訳かもしれない。
もしかしたらずっと、誰かに聞いてもらいたかったのかもしれない。
助けて、ほしかったのかもしれない。
「あたし明日にはココ出るからさー」
「…」
「今日だけ一緒に遊ばない?」
「…おぅ」
少年が少し頬を染めてそう言うと、少女は笑って手を引いた。
「あたし !君は?」
「…おきたそうご」
(過去を振り返るのも大切だけど、今はただ前を向いて)