任務を片付け、仲間と落ち合う場所への最後の角を曲がる。
そこには、すでにが居た。
「…相変わらず早いですねィ。さん」
「そうでもないよ、今来たばっか」
…嘘つけィ。
一緒に任務をすれば必ずさんが先に終わっている。
剣の正確さももちろん、スピードも相当なモノだ。
本当、旦那といい勝負だと思うんですがねィ。
初め座り込んでいたからドキッとしたものの怪我はしてないようでほっとした。
俺と違って、返り血もあまり浴びていない。
「!総悟…」
俺の顔をみたさんが、少し慌てた様子で立ち上がり駆け寄ってきた。
「そのほっぺたの血…返り血じゃないでしょう?」
言いながらハンカチを取り出し、拭こうとしてくれる。
「?いや返り血だと思…いだだだだ!」
「ほらァ!おもいっきり切傷でしょうがァァ!」
確かにちょっと痛い。あーそういや刀、かすったかも。
本人でさえ気付かなかったのに、気付いちまうんだよなァ。流石。
他の連中もさんには隠し事出来ないって言ってたっけ。
「せっかく男前な顔してるのに…」
"男前"なんて言い方してくれるのは多分さんだけだ。
他の奴は"綺麗"だとか"女顔"とか言うけど男がそんな風に言われても嬉しくも何とも無い。
まぁさんに言ってもらえるなら、何でもいいのだけれど。
「はい、終わり」
ハンカチで傷の周りの汚れを取った後、屯所戻ったらちゃんと消毒しよう?と言ってさんは笑った。
消毒なら、さんが舐めてくれたっていいのに。
なんて、言えねぇが。
一応、付き合ってるハズなんだけどなァ。
キスも滅多にしないし(そーゆー隙を中々くれないから)付き合う前と、あまり変わらない気がする。
年は俺より少し高い癖に背はそーでもないからさんはいつも俺を見上げるみたいになる。
あーキスしてーなァ。
でも今はそれよりさんが笑った時に口から赤いものが見えた気がしてそっちの方が気になった。
とりあえず、ほっぺたをつねってみる。
「いっ、…いひゃいひょうご!!」
あ、やべェその表情。俺ァやっぱSみてェだ。
…今更か。
とまぁつねってみるとさんは抗議の声をあげたがそれと同時に口の端から赤い液体が流れ落ちた。
それが白いスカーフに染みを作る前に指で拭う。
「なっ何す「さんだって、怪我してるじゃねーですかィ」
手を離すとバッと体ごと離れようとしたからとっさにさんの手を掴んだ。
「こ、これはちょっと口の中切っただけだから」
両手を掴んで壁にぬいとめると下を向いて小さな声で離して、と言う。
「ダメですぜィ。まだ消毒してませんからねィ」
「え…?」
反射的に上を向いたさんに、口付けた。
最初は軽く、だんだん深く。
血が流れていたのは右の方だったから、傷口を探して舐めあげる。
と、僅かだけどさんがビクッと震えて声を漏らした。
…やばいエロい。
唇を離すと、ちょっとピンクがかった銀糸がひいて、切れた。
と思ったらさんの膝がかくんと折れて慌てて俺もしゃがんで抱きとめる。
「…大丈夫ですかィ?」
「…〜〜〜っ!何が、消毒よ…」
あまりに小さな声で言うものだから笑ってしまったら怒られた。
…そんな真っ赤な顔して説得力全然無いのに。
恥ずかしいなら、嫌なら、さっさと俺の腕から抜け出せばいいのに、無防備に寄りかかってくるあんたが悪いんですぜィ?
「さん、もう一回こっち、向いて下せぇ」
「…うん」
「さん」
「んー?」
「帰りやすか」
そろそろ離れてもらわないと俺がヤバイんでさァ。
…初めてがアオカン、なんて訳にいかないだろィ?
なんて、言えねぇが。
先に立ち上がってさんへ手を差し出した。
…あ、良かった自分で歩けるみたいだ。
…まさか、腰砕けになるとは思わなかったんだけど。
まぁ、可愛いしちょっと嬉しいしさんなら本当に何でも良いんだ。
いつもとは逆に俺のちょっと後ろを歩いて、
いつもとは違う俺に手をひかれて歩くさんに、
振り返って耳元で囁けば真っ赤になってちょっと睨んでくるあんたが、
好きでさァ。
(「屯所に帰ったら、消毒の続きしやしょうか?」)