人は皆、人生で一度は死にたいと思ったことがあると思う。それは例えば失恋した時だとか、大切な人、最愛の人を失った時だとか、無一文で明日からの生活が真っ暗になった時、受験に失敗した時、ただ消えてしまいたいと思った時…など様々な場合と立場があるだろう。けど死にたい、と思ったところで実際自ら命を絶とうとする人は少ない方だとも思う。死にたいと思った人の割合から言えば。それは他に大切なものがあったり、譲れないものがあったりするから未練があると感じてとどまるか、あるいは勇気が無いか。どちらかだと思う。…では私はどちらか。勇気が無い、なんてありえない。ただいつも他人に向ける刃を自身に向けるだけの事に、恐れなど感じない。では他に大切なものが?…無い。そんなものは存在しない。だって私は全てを失ったからこの道を選んだのだ。人を殺す、殺し屋の道を。もう抱えこまないように、危ないものは全て捨ててきたし、これからも拾うつもりもない。では何故私は死のうとしないのか。答えはいたって簡単だ。ただ、気にくわないのだ。あんなヤツー骸なんかの為に、何故この私が後を追わなければならないのだ。何故涙しなくてはならないのだ。だから私は死なない。それが私が生きている理由。

 

「そーゆー訳で、私骸が死んでも後追わないから」

「…そうですか、ええ、良い答えだと思いますよ」

 

流石僕の恋人だ、と笑う口から赤い液体が流れる。大丈夫?なんて声かけてやらない。だってもう、分かってるし。辺りは暗くて、でも建物に囲まれた路地の地面は黒いスーツの男達が倒れていて余計暗く見えた。そして鼻をつく、血の臭い。

 

「でも、…一つだけ忘れていることがありますよ」

「何?」

「何故君が死のうと考えたか、の理由です」

「!」

 

何故か。そんなの分かってる。そして骸も、分かっていて聞いてくるんだ。だって少し笑っているもの。ねぇ?

 

その時の骸は骸らしくなかった。あの妙に感に触る独特の笑い方を一度もしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…一年、前か」

 

いつの間にか突っ伏して寝ていたらしいテーブルから顔をあげると、まだ来ていない日付に×印のついた、カレンダーが見えた。

 

「…本当はね、」

 

あるんだ。ちゃんとした理由。私が死なないで今日まで生きてきて、そして明日からも行きていく理由。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時静かだった部屋に、インターホンの音が響いた。

 

「!」

 

もしかしたら?もしかしたら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…お久しぶりです、

 

理由は、貴方がまた戻ってくると信じていたから。輪廻を廻り続けるのでしょう?なら私が死んだら二度と会えないじゃないか。私にそんなこと出来ないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…骸、」

「はい」

「…おかえり」

 

 

 

 

 

だから、生きる。

 

 

 

 

 

 

 

 

貴方に出会った時からそんなこと無理だと分かっていた

 

 

 

 

 

END・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

思い付いて書いた骸夢です。

タイトル思い付いてこれは骸だな、と思いまして 笑   (070519)