そんなに早く家に帰っても、両親は仕事だし誰かが待っている訳でもない。
待ってくれる人は居ないけど、待っていると来てくれる人が居る。
…それが、ディーノ先生。
先生は私の家庭教師で。
普通なら毎日家庭教師が来て勉強、なんて嫌でたまらないんだろうけど、あたしは毎日ディーノ先生に会えるなら嬉しくてたまらない。
家に帰れば必ず会える。
たまには友達と遊んだりするけど、特に用事が無いときは真っ直ぐ家へ。
先生に会えるから、もしその日最悪の出来事が起ったってちょっと良い日になるし、良い事が起った日は最高の日になる。
だから、毎日が楽しい。
「ただいまー」
返事なんて返って来ないけど、癖で言ってしまう。寂しくはないけど。
部屋に戻って荷物を置き、髪型とお化粧が崩れていないかチェック。
…よし!大丈夫。
時計を見ると丁度四時。
…もうすぐ、だ。
暫く経つとピンポーン!とインターホンが鳴った。
「!先生ー」
「おー今日も元気だな」
「うん!、どーぞ」
「邪魔するぜ」
会話だけ聞いてると、教師と生徒というか友達みたいだ。
けど先生はやっぱり先生で、部屋に入ればそこには勉強しかない。
でも先生の教え方、分かりやすくて好き。
「じゃぁさっきのまとめの問題解いて」
「はーい」
今日は世界史。暗記は結構得意なので自信あり。
「先生ー」
「ん?」
「…全問正解だったらキスしてくださーい」
「おー」
会話だけ聞いてると何?!と思うかもしれないけど、ぶっちゃけ"全問正解だったらご褒美のキス"は今に始まった事じゃない。
もちろん、場所はくちびる。
一番最初、冗談で言ったらあっさりOKしてくれてびっくりして、せいぜい頬だと思ってたら、くちびるにされてもっとびっくりした。
あたしはもちろんそれがファーストキスだったから、その時は必死で動揺隠してその後も勉強頑張ったんだけど先生はフツーにしてたから、きっと先生イタリア人だしキスなんて挨拶みたいな物なんだよね、と思ってあたしも出来るだけ平然を装ったのを覚えている。
でもそれでも幸せだから、あたしは今日も"ご褒美のキス"の為に頑張るわけで。
けど、"ご褒美のキス"はどんなに多くの種類、量の問題をこなしたって絶対、一日一回。
…つまり世界史で全問正解して次に古典でも全問正解したとしても、二回にはならない。
これはもう、経験済み。
出来た答案を先生に渡す。
先生が丸つけしてる間、机に肘をついてそれを眺めて。
うわ先生、睫毛長い。
…聞いてみようかな。
…今なら、聞ける気がする。
「…先生」
「んー?」
「なんで、一日一回なの?」
「何がー?」
「キス」
先生は丸を付けながら、あたしは肘をついたまま、布施目がちの先生の目を見ながら会話する。
あ、れ。
沈黙?
…。
「…一日一回までじゃないと、」
「…じゃないと?」
「理性、きかなくなるから」
「…え、?」
答案用紙を見ていた先生が顔をあげて、あたしを見た。
言われた意味がよく分からなくて、いや分かってる?んだけど、そんな事ないよ自惚れだ。
「俺、の事好きだから」
先生の瞳は相変わらずあたしを捕えたままで。
静かな部屋に響いていた電気製品の音とか、正確に時を刻んでいた時計の秒針の音とかが、全て聞こえなくなって、先生の言葉だけが頭を支配した。
それは、つまり、自惚れもいいって事、?
「先生」
「うん」
丸をつけ終わった答案を見る。
全問、正解。
「先生は先生だけど、」
「うん」
「学校の先生とかじゃないから家庭教師だから、」
「…」
「生徒に手、出してもいいと思う、よ」
「…そっか、」
じゃぁ、いい?と満点の用紙を指して先生は笑う。
だからあたしも笑っていいよ、って言ったら、先生の顔が近付いてきて目を閉じた。
一日一回
君の気持ちが聞けたから、そんな規則は今日でさようなら
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これも一度やってみたかったネタです。
一日一回って言ったら初めお風呂ネタ思い浮かんだんですけど、なんとなくこっちにしました。(070125)