「…何だか騒がしいな」

「…どうしたんだろうね」

「…」

 

ここは法務省の中にある社員食堂。

確かに利用する者は多いし、雑談しながら食べる者も多いため静かな事はありえないのだが。

 

「ちょっと異常だよね」

 

何故なら、食堂の外まで人が並んでいるから。

思わず呟いたのは特刑副隊長式部清寿。

後ろでこの尋常じゃない人に少々イラっときている総隊長御子柴笑太と同じく第一部隊所属の藤堂宇沙希。

もっと仲間内の関係を深くしようと式部が提案し(ちなみに2回目)、御子柴と藤堂を誘った訳で。

 

「しかも何か男ばっかだしよ…」

 

確に法務省で働く人は女性より男性の方が多いが、それにしてもこの光景は先程も言った通り“尋常”。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…しかし。

 

「…あ」

 

15分程して、列が徐々に進み、次が自分達の番となって見えてきたのは、厨房。

と、忙しそうに働く、見知った顔―

 

(ちゃん)

「…」

 

そう、ウェイトレスの格好をして忙しそうに働く、第五部隊所属の

しかしよく見れば働いているのは彼女だけでなく、厨房には綾寧、慈乃、と同じくウェイトレスに蘭美。

思わずハモッて名前を呼んだ御子柴と式部に気付いたのか、はこちらへとやってきた。

 

「笑ちゃん!清寿に宇沙希くんも!」

 

いらっしゃいませ〜と笑顔で迎えられる。

 

「禁煙席3名様でーす!!」

 

呆気にとられている3人を、ほら混んでるんだから早くしてと言って席へ案内する。

ご注文は?と聞かれてようやく御子柴が反応した。

 

「え、いやお前らなにやってんの?」

 

よく見れば他にも諜報科や事務で働いている女性社員もいて。

もう社員食堂っていうかレストラン?みたいな。

いつもはセルフサービスだが今日は違う。

 

「あ、何かね、いつものシェフが昨日風邪で倒れちゃったらしくて」

「…それで手伝ってるの?」

「うん、社内感染すると困るから、他に働いてた人も今日は休んでもらって朝業者が全部消毒したのよ」

 

人数分の水とおしぼりを置くと、はお盆をかかえた。

 

「で、何でお前らが?」

「あぁ、ほらここってあんまり利用する人いないじゃない?」

 

そう、食堂に入れる人数が限られているのもあるが、ほとんどの社員は大抵ランチを持参か外かで済ませる。

 

「だからこの機会に食堂を活気付けようって」   

「三上さんが。その代わり今日は仕事休んでいいって」

「…他に誰かに何か言われたか?」

「え?…あー何か柏原さんとか五十嵐さん、保井さん…璃宮、元親、瑞城とか皆来たけど」

「…」

「皆美味しいって言ってくれたよ?」

 

成程、確かに今働いている面子なら普段利用しない者も足を運ぶだろう。

あのヤロー…たまには良い仕事するなと心の中で呟いたのはこの事実を知ったほとんどの男に当てはまるはずだ。

しかし何故料理が得意なが厨房に入っていないのだろうと考える者もまた多いはず。

 

 

 

ー?後も並んでんだから早く!!」

「!はーい!…注文決まった?」

 

向こうで注文をとる蘭美に呼ばれ慌てて返事をした。

3人もメニューを見るが、どうやらこっちもいつもと違うらしい。

 

「あーっと…」

「オススメってある?」

「あ、それならAセットがオススメかも」

 

デザートのパンナコッタはこのちゃんの手作りです♪、なーんてねと言いながらにっこり笑ったを見た瞬間3人のランチは決まった。

 

「…じゃぁそれで」

「俺も」

「僕も頂こうかな」

「了解しましたー」

 

ご注文を繰り返えさせて頂きます、Aセットが3つ、以上でよろしいでしょうか?と確認をとり終わるとじゃぁお待ち下さいーときびすを返した。

 

 

 

「…何でちゃんがウェイトレスか気にならない?」

「…お前もか」

 

他の面子の役割分担は納得出来る。

慈乃、綾寧は器用だし、他に厨房にいる人もそれなりにてきぱきやっている。

ウェイトレスも順調に料理を運んでいる。

…おそらく蘭美が注文をとるだけなのは失礼ながら彼女なら皿を落としかねないからだろう。

それでは先ほどから言っているように、何故料理の出来るがウェイトレスなのか。

 

 

「…まぁ多分アレじゃね?」

「…かなぁ、やっぱり」

「…」

 

そんな二人の先には、が追加注文であちこちから声をかけられている姿。

はっきり言っては法務省でも人気がある。

元々女性の少ない職場だ。

加えてあの性格と容姿。

嫌いな男は居ないだろう。

でだ、そんなも特刑なので普段はあまり近付くことが出来ない。

休息時間も仲の良い蘭美達といるか、第一部隊、第三部隊と…もう絶対防御みたいな。

だから今日が最大のチャンスなのだ。

注文をする、それだけであの笑顔を自分に向けてもらえるから。

 

 

「笑太君も大変だね」

「…あんなんライバルにもなんねぇよ」

「あ、」

 

式部の声に視線を先程の方へ戻すと…一人の男がの手首を掴んでいた。

大した事でも無いのだろう、も笑ってさりげなく振りほどくとお辞儀をして厨房の方へ向かう。

 

「…」

「笑太くん顔恐いよ?ねぇ宇沙希くん?」

「…はぁ、」

「…うっせ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おまたせしました!」

 

器用に2人分の料理を運んでが歩いてきた。

もう1人分とデザートは事務勤の女性が。

とりあえず自分で運んできたものを置き、彼女からデザートのお盆を受けとると並べていく。

 

「わぁ美味しそう」

「すげぇな」

「でしょー?ちなみにメインディッシュは慈乃の、サラダとスープは綾寧の得意料理です!」

「デザートも美味そうだし」

「ありがと」

「うん食べるのが楽しみだな。あ、そうそうさっきは言えなかったけどちゃん」

「ん?」

「可愛いね、その格好」

 

 

式部がそう言った瞬間、4人を除く周りにいた男達の動きが止まり、気のせいか温度が1℃下がったようだ。

 

「あ、ありがと!」

 

照れたように笑うを見てそれは解消されたが。

 

「…、」

「え?なに笑ちゃ、」

 

かと思うと今度は御子柴が声をかける。

…ただし、手首を掴んで自分の方へ引き寄せながら。

 

「今度また俺ん家来て飯作ってな?」

「!」

 

そうして耳元で囁けば一瞬にして赤くなる

それは決して大きい声では無かったものの、聞耳を立てて食堂にいた社員達には丸聞えで。

今度は温度が2℃位下がったのではないだろうか。

 

 

「…うん、まっまた今度ね!」

 

やっとの思いでそう言うとぱたぱたと走り去ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アンタ…」

「ごめん顔洗ってきます!」

 

厨房を通り過ぎて奥のスタッフルームへ。

 

 

 

 

 

「ま、これで大丈夫だろ」

ちゃん顔真っ赤にしちゃって可愛かったねー」

「…言っとくが清寿、お前にも渡さねーからな」

「ふふ、まぁそれはちゃん次第だしね」

 

 

 

 

 

 

―さてさて、果たして皆に愛されているちゃんは総隊長と恋仲なのでしょうか?―

 

 

 

 

「あ、おい宇沙希何デザートから食ってんだ!」

「…量の多い時は好きなものから食べるのが自分の家の習慣でしたので」

「習慣って、ガキかお前」

「ま、ライバルは僕だけじゃないって事だよ、笑太くん?」

 

 

 

 

 

 

―それはきっと当人しか知らない秘密―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…あーもう!笑ちゃんのばか!!」

 

The borderline between 

friendship and love 

きっと天秤はとっくの昔に右に傾いているのだけれど

 

 

 


END・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

という訳でリクエストして下さった梓様に捧げます!

遅くなってしまって本当に申し訳ありません!!そして何だかよく分からない話で;;…ちゃんと御子柴寄りになっていますでしょうか?;;

宇沙希をどうするか凄い迷いました;;笑 

宇沙希は何にも考えないで何か言っちゃうのがいいと思ってます(え)

それではありがとうございました!

ローズドロップス/秋山美雨羅(071124)