気が付いた時には、私は既に"そこ"に居た。何時、何故、どうやって来たのか分からない。けれど私は確に"そこ"に居て、知らない彼も"そこ"に居た。否、違う。見慣れない人だけれどそれは確に彼だった。そう、丁度10年位経てばこんな大人になると思う、彼―山本武。何が起こってるのかなんて分からないけれど、自分の彼氏を見間違う程私は馬鹿じゃないはずだ。その、仮に大人武とでも言うべきか?いや武は武だから武でいいか。…何か訳が分からなくなってきたけれど、とにかく今ここに居るのは私達二人だけだった。

驚きと戸惑いで何も言えずにぽかんと口を開けている私とは逆に、武は座り込んだままの私にちょっと微笑んで手を差し出してきた。…座り込んだまま?その手をとって、立ち上がってから辺りをよく見渡してみると、そこは私の部屋だった。机があり、テレビがあり、そして私達はどちらともなくベットに腰かけた。

 

 

武は、何にも変わっていなかった。ただ、顎に傷跡が有る事だけが、私の知ってる武と違った。だって、私を抱き締める腕の感触も、その体温も、くちびるの熱だって、全部知っていた。同じだった。私達は長い間抱き締めあってキスをしていたけど、会話は一言も交さなかった。ただ、喋る時間が勿体なかったのかもしれない。無意識に頭の何処かに、この時はあまり長く続かないという考えが、予感が有ったのだと思う。

 

 

 

 


ふと、武の手が離れた。

「……」

私は、離したくなかった。だって、まるで、これで最後のような気がしたのだ。今、この手を離したら、もう二度と"武"に会えない様な気がしたから。

「…何処、行くの、」

そう言うのが、やっとだった。その声は自分が思ったよりも小さくて震えていたけれど、今の私にはそれに苦笑する余裕さえ残っていなかったのだ。

「…悪ぃな、

そしたら武は少しだけ、―少しだけ悲しそうに笑って、私のおでこにキスすると、消えてしまった。

 

 

 

消えて、しまった。

とっさに伸ばした腕は、虚しく空をかいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

朝、異常なまでの汗をかいて私は覚醒した。

「…夢?」

けれど夢にしてはあまりにリアルで、悲しくて。

鏡に映った顔は涙の跡で酷かった。

「…行かなきゃ」

武に、会いにいこう。こんな酷い顔で行きたくなんて無いけれど、今はただ会って確かめなくては。武が居る、って、確かめたい。

 

私は急いで顔を洗いに行き、服に着替えて朝食も食べずに家を飛び出した。うちは両親共働きだから、お母さんももう家を出ていた。早く、早く。けど、私の足は玄関を飛び出したところで止まってしまった。

 

「…なに、これ…」

玄関の前に、1つの銃弾のような物が刺さっていた。まだ煙が出ている。気味が悪くて怖かった。でも、私はこんな事してる場合じゃない。おそるおそる銃弾をまたいだ時、何かを蹴ってしまった。

「…なんで、」

見ると、銀色に輝くリングだった。そう、まるで婚約指輪のような。そして私はそれに見覚えがあった。…昨日、彼がしていたのと同じものだった。

 

 

 

 

 

 

結局、武は何処にも居なかった。それどころか、ツナ、獄寺、リボーンくん、了平先輩、京子、ハル…いつも一緒にいた皆が、皆して居なくなっていた。私、だけが、取り残されてしまった。

 

 

 

 

 

 

昨日夢の中で会った武は、何にも変わっていなかった。ただ、顎に傷跡が有る事だけが、私の知ってる武と違った。 …なんて、嘘だ。認めたくなかっただけだ。私達は、これから先も変わらない、そう信じたかっただけだ。だってあの傷跡は明らかに斬り傷だったし、何より瞳が違った。優しい瞳だったけれど、少しだけ違った。私は、そんな瞳知らない。まるで、ひとをころしたことがあるような、め。認めたくなかっただけなんだ。

「…もし、あの銃弾を受けていたら、私も皆と一緒に行けたのかな…」

手掛りはリング1つだけ。私はそれを握り締めて祈るしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…山本?大丈夫?」

顔色悪いけど、とツナが声をかけた。

「…あぁ」

「…ちゃんの、事?」

「…何であいつだけ、コッチ来ねぇのかと思ってさ」

「……」

京子もハルも来ている。いや、来てしまっている。のに、なんで、

 

 

「…やまも、」

「まぁ来ない方が良いんだよな!」

巻きまれていないならそれに越したことはない。10年前で、安全に暮らしてくれていた方がいい。自分が生きて帰ればいい、それだけの事だ。

 

「変な事言って悪ぃなツナ!」

「あ、ううん…」

「皆で帰ろうな!」

「!うん!」

これで良いんだ。無事なら良いんだ。

 

 

 

 

「(そんな顔されたら、何も言えなくなっちゃうじゃないか、…山本)」

 

 

 

 

 

 

 

ディーオは二度わない 

なのに、側に居て欲しいと思うなんて、どうかしてる。

 

 

 

 

 

 

 

 

END・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

リクして下さった乙様に捧げます!遅くなって本当ごめんなさい。

そして…シリアスになっていますでしょうか?汗

しかもタイトルも…汗 

それでは、ありがとうございました!

ローズドロップス/秋山美雨羅(070831)