驚きと戸惑いで何も言えずにぽかんと口を開けている私とは逆に、武は座り込んだままの私にちょっと微笑んで手を差し出してきた。…座り込んだまま?その手をとって、立ち上がってから辺りをよく見渡してみると、そこは私の部屋だった。机があり、テレビがあり、そして私達はどちらともなくベットに腰かけた。
武は、何にも変わっていなかった。ただ、顎に傷跡が有る事だけが、私の知ってる武と違った。だって、私を抱き締める腕の感触も、その体温も、くちびるの熱だって、全部知っていた。同じだった。私達は長い間抱き締めあってキスをしていたけど、会話は一言も交さなかった。ただ、喋る時間が勿体なかったのかもしれない。無意識に頭の何処かに、この時はあまり長く続かないという考えが、予感が有ったのだと思う。
ふと、武の手が離れた。
「……」
私は、離したくなかった。だって、まるで、これで最後のような気がしたのだ。今、この手を離したら、もう二度と"武"に会えない様な気がしたから。
「…何処、行くの、」
そう言うのが、やっとだった。その声は自分が思ったよりも小さくて震えていたけれど、今の私にはそれに苦笑する余裕さえ残っていなかったのだ。
「…悪ぃな、」
そしたら武は少しだけ、―少しだけ悲しそうに笑って、私のおでこにキスすると、消えてしまった。
消えて、しまった。
とっさに伸ばした腕は、虚しく空をかいた。
朝、異常なまでの汗をかいて私は覚醒した。
「…夢?」
けれど夢にしてはあまりにリアルで、悲しくて。
鏡に映った顔は涙の跡で酷かった。
「…行かなきゃ」
武に、会いにいこう。こんな酷い顔で行きたくなんて無いけれど、今はただ会って確かめなくては。武が居る、って、確かめたい。
私は急いで顔を洗いに行き、服に着替えて朝食も食べずに家を飛び出した。うちは両親共働きだから、お母さんももう家を出ていた。早く、早く。けど、私の足は玄関を飛び出したところで止まってしまった。
「…なに、これ…」
玄関の前に、1つの銃弾のような物が刺さっていた。まだ煙が出ている。気味が悪くて怖かった。でも、私はこんな事してる場合じゃない。おそるおそる銃弾をまたいだ時、何かを蹴ってしまった。
「…なんで、」
見ると、銀色に輝くリングだった。そう、まるで婚約指輪のような。そして私はそれに見覚えがあった。…昨日、彼がしていたのと同じものだった。
結局、武は何処にも居なかった。それどころか、ツナ、獄寺、リボーンくん、了平先輩、京子、ハル…いつも一緒にいた皆が、皆して居なくなっていた。私、だけが、取り残されてしまった。
昨日夢の中で会った武は、何にも変わっていなかった。ただ、顎に傷跡が有る事だけが、私の知ってる武と違った。 …なんて、嘘だ。認めたくなかっただけだ。私達は、これから先も変わらない、そう信じたかっただけだ。だってあの傷跡は明らかに斬り傷だったし、何より瞳が違った。優しい瞳だったけれど、少しだけ違った。私は、そんな瞳知らない。まるで、ひとをころしたことがあるような、め。認めたくなかっただけなんだ。
「…もし、あの銃弾を受けていたら、私も皆と一緒に行けたのかな…」
手掛りはリング1つだけ。私はそれを握り締めて祈るしかなかった。
「…山本?大丈夫?」
顔色悪いけど、とツナが声をかけた。
「…あぁ」
「…ちゃんの、事?」
「…何であいつだけ、コッチ来ねぇのかと思ってさ」
「……」
京子もハルも来ている。いや、来てしまっている。のに、なんで、
「…やまも、」
「まぁ来ない方が良いんだよな!」
巻きまれていないならそれに越したことはない。10年前で、安全に暮らしてくれていた方がいい。自分が生きて帰ればいい、それだけの事だ。
「変な事言って悪ぃなツナ!」
「あ、ううん…」
「皆で帰ろうな!」
「!うん!」
これで良いんだ。無事なら良いんだ。
「(そんな顔されたら、何も言えなくなっちゃうじゃないか、…山本)」
ディーオは二度笑わない
なのに、側に居て欲しいと思うなんて、どうかしてる。
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リクして下さった乙様に捧げます!遅くなって本当ごめんなさい。
そして…シリアスになっていますでしょうか?汗
しかもタイトルも…汗
それでは、ありがとうございました!
ローズドロップス/秋山美雨羅(070831)