「姉御!!見て見て食べたアル!!」

「まぁ本当ね、可愛い」

「…なぁ志村弟」

「…何ですか?」

「鹿にせんべえやんのって、そんなに楽しいか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まぁアレだ。只今修学旅行中。場所はもちろん京都。なのに、何故か京都へ来ると大阪だとか、奈良だとかが大抵セットになっていて、それじゃぁお前ら京都回る時間が削られるじゃねーか!みたいな感じなのだが、それも仕方がないことで。3Zはまぁ京都+奈良になった訳だ。そしてこれまた修学旅行というものには班というものがあって、移動するにも点呼とるのも班単位なのである。…公平にクジで決めたものの、何だが微妙なメンバーだな、と思ったのは新八だけではないだろう。そう、今まさに鹿にせんべえをやっているこの第5班のメンバーは、妙、神楽、、新八、高杉、沖田。女子はともかく男子は「え?コレやってける?やってけんの、ねぇ?」と(新八を)不安にさせるには十分であった。

 

 

 

そして今は妙、神楽が鹿にせんべえをやる光景を新八、高杉が見守っている。沖田とは向こうの方にいた第3班(土方のいる班)のところへ(土方を殺りにからかいに)行ってしまった。…いや、正確には沖田がをほぼ無理矢理連れていったのだが。それが高杉の機嫌を少し損ねたのはおそらく誰も気付いてない。

 

 

 

 

 

 

「ごめんね!ただいまっ」

!待ってたヨ!も鹿にせんべえやるアル!」

「はい、の分」

「あ!ありがとう」

 

 

しばらくしてはこちらに戻ってくると神楽、妙と一緒に楽しそうに鹿と戯れ始め、の一歩後を歩いてきた沖田は新八の隣に来ると木に寄りかかって彼女達を見守るのに加わった。内心、「鹿にせんべえやるのがそんなに楽しいのかィ?」と思いながら。

 

 

 

 

「…高杉さん」

「あ?」

 

沖田を睨んだ彼が何か言い出さない内に、この男子の中に流れる微妙に気まずい雰囲気をどうにかしようと新八が口を開いた。…ものの。特に話題を思い付いた訳でもなく声を出してしまったので、何を言ったら良いのか分からない。

 

「(…あ、)」

 

それでもを見たら自然と言葉が溢れていた。

 

「んだよ」

「…あ、えっと…まぁ、楽しいんじゃないんですか?」

「?」

 

沖田も横目で新八を見る。

 

ちゃんがあんなに笑ってるから、楽しいんじゃないかと思って」

「…」

 

成程、先程の自分が尋ねた質問の答えかと高杉は納得した。沖田もなんとなく状況が分かったようでの笑顔へ視線を向けた。

 

 

 

「…それにしても、」

「?」

 

今度は沖田が口を開く。

 

「何でチャイナはあんなにせんべえ抱えこんでんでィ」

「…え?」

 

いつの間に買ったのか、確に神楽は大量のせんべえを持っていて。

 

「…えっと、神楽ちゃん?一応言っとくけどそのおせんべいは鹿用だから人間は食べれないんだよ?」

 

男子達の会話に気付いたが恐る恐る聞いてみる。

 

「!!マジアルか!?」

「…え、いや…うん」

「何でヨ!!鹿に食べれるもの私達も食べれるヨ!同じ動物アル 食べ物に国境線は無いネ!!」

「えっと…(一見良い事言ってる用で違うのよね?国境線って…)」

 

これには流石の妙も驚いたのか、疑問を口にする。

 

「というか神楽ちゃん、そんなに買うお金何処から…」

「バスの中で新八の財布から借りたヨ」

「ってちょっと待てェェェェ!!」

 

さらっと答える神楽に対し慌てて自分の財布を確認する新八。そんなまさか。そう思いながら。

 

「心配するなヨ 1000円は残してあげたネ」

「…ホントにそれしか残ってないし…」

 

新八、ちょっと、いや結構泣きそうです。

 

「遠足のお小遣いは500円って決まってるネ  その2倍もあるヨ」

「これは旅行だろうがァァ!!何だよ遠足のお小遣いってェェ!」


そう、これは修学旅行。大体お小遣いは1万円までと決まっていて、まぁ殆んどの人はそれくらい持ってくる。だが、は知っていたのだ。修学旅行の翌日、お通ちゃんのコンサートが有る為、新八があえて5000円を持ってこなかった事を。チケットは確保してあっても会場限定グッズ等もある。持っていくと使ってしまうから、という理由で新八は最初から5000円しか持ってこなかったのだ。

 

「(でもこれ1万円持ってきてたら神楽ちゃんに9000円とられてたな…でもどうしよう…まさか姉上には…)」

 

新八が何やら考え込み、、沖田、高杉が見守る中妙が口を開いた。

 

「…まぁ使ってしまった物は仕方ないわ。神楽ちゃん、今後はこういう事しちゃ駄目よ?」

「…分かったヨ」

「それから新ちゃん言っとくけど、」

「はっはい?」

「私の金は貸さねーぞ」

「…分かってます…」

 

一瞬にして氷ついた空気に、会話に入ってない3人も引きつった顔になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて所変わって京都の街へ。中でも多くの店が並ぶこの通りは修学旅行シーズンということもあって人が溢れ返っている。

 

「見てみて総悟!夏限定のラムネ風味八ツ橋だって!!」

「へェ変わってんなァ」

「激辛じゃないけど、ミツバ姉に買ったら喜ぶかなぁ?」

「じゃぁこいつァ俺とからの土産にしやしょうか?」

「うん!」

 

沖田とは幼馴染みで、兄弟の居ないは沖田の姉の事を本当の姉のように慕っていて。おそらく、ミツバもを本当の妹のように想っているだろう。楽しそうに話す二人を見て、また少し高杉の機嫌は悪くなったようだが。

 

 

 

 

 

「…新八君!」

 

沖田の次は志村弟か、と心の中で呟く高杉の前を横切って。

 

「お土産買いたいでしょ?どれが欲しい?」

「!え…でもちゃんが」

「私は大丈夫!それよりお通ちゃんに何か買っていくって言ってたじゃない!」

 

だからお通ちゃんの分と新八君の分、お金貸してあげるから!と笑うに遠慮していた新八もそれじゃぁ…と好意を受け取った。

 

「(“貸してあげる”って言っといて、どーせ奢るつもりなんだろーなァ)」

 

の優しさは皆に平等で暖かいが、損してる部分もあんじゃねーかと高杉は心の中で呟いた。もちろん、は見返りなんて望んでないだろうが。

 

「?高す「 次あの店行こうぜィ!」

「え、あ、うん…」

「!(あいつ…)」

 

そう言っての手を引いて歩き出したかと思うと、振り返ってニヤリと高杉に笑ってみせた沖田。大切な幼馴染みをそう簡単に渡すか、と言われている気がした。

 

「?」

 

しかしこれは班。共に行動しなければが困るかと思い溜め息をついて後ろを着いていく高杉の目に、一瞬だったが何かをじっと見つめるの姿が移った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…あれ?」

「どうしたの?」

宿に着き、食事、風呂が終わった頃、自分の鞄の中を確認するに妙が声をかけた。神楽はもう半分寝ている。

 

「ポーチが見当たらなくて…お風呂入った時かな?」

「その後卓球もしたわよ?」

 

たまたま風呂から出て部屋へと歩いていると、3Zの男子達が卓球をしていたのだ。それで沖田が神楽を煽って女子も参戦した、という訳で。その時も高杉と話せなかったな、とは溜め息をつきそうになるのをこらえた。

 

「…そっか!探してくるね!」

「一人で大丈夫?」

「大丈夫!ありがと!」

 

そう言うと宿のスリッパを履いては部屋を出た。とりあえず部屋から近い卓球場へ行こうかと階段を降りる。流石に就寝時間が近付いているからか、生徒はまばらだった。そして女子の泊まる階が終わり男子の階を通り過ぎようとした時、声をかけられた。

 

!」

「!高杉?」

 

数段降りた階段を引き返すと、そこにはケータイを右手に、そしてあるモノを左手に持った高杉の姿があった。

 

「あ!そのポーチ…」

「やっぱりお前のか。今電話しようとしていたところだ」

 

そう言ってケータイをパタンと閉じるとポーチを差し出した。

 

「あ、ありがと…」

「卓球場のベンチに有った」

「そっか。助かったよありがとね!」

「…」

「…高杉?」

 

突然黙ってしまった高杉を不思議に思いは尋ねる。

 

 

 

 

 

 

「お前、似合うな、ソレ」

「え?」

「…浴衣と、髪型」

「…っ、」

 

聞いた瞬間の顔に一気に熱が集まった。そう。風呂上がりのため服装は宿が支給した浴衣に、長い髪が邪魔だからとおだんごにした髪型。突然のその高杉の言葉に、びっくりしてしまったのだ。誉めて、貰えたのが嬉しくて。それが好きな人なら尚更。

 

「…って、ちょ…」

「ちょっと黙ってろ」

「…う、うん」

 

少しの沈黙が続いたかと思うと、高杉がを引き寄せた。はまたまた突然の高杉の行動に戸惑ったものの、言われた通り大人しくしていると少しして高杉が離れた。そして、髪のおだんごの部分に違和感―

 

「ソレ、やるよ」

「!…これ、」

 

側にあった窓を鏡がわりにすれば、おだんごに器用に飾られたのは昼間自分が目を奪われたあの簪で。

 

「え、これ高かったんじゃ…」

「…いいんだよ。お前、人の為にしか土産買ってねぇだろ」

「!」

「1つくらい自分のモン持っとけ」

 

確に、京都に来て初めて自分に欲しいと思ったモノはこの簪だった。でも結構な値段だったのとどうせ自分には似合わないという思いから買えなかったのだ。

 

「でもそれじゃ高杉は…」

 

自分に何か買った?と聞こうとした瞬間、唇に柔らかい感触を感じた。

 

「…俺は、これでいい」

 

そう言ってニヤリと笑った高杉に、は思いきり抱きついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…高杉」

「あ?」

「…ありがとう」

 

今一番のモノを君に 

私なんかで良かったら、どうぞ貰って下さいな

 

 

 

 

 

 

END・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

というわけで、リクして下さった伊井笹名様に捧げます!遅くなってごめんなさい!

無駄に長くてすみません

…高杉夢になるまでが長いですね;;

何となく高杉とヒロインさんは皆からの意図的&無意識的邪魔が入りそうだなと思ったらこんなことに…;;

では、ありがとうございました!

ローズドロップス/秋山美雨羅(070826)