「土方さーん」
「…」
「ひーじかーたさーん」
「…」
「土方さん、暇」
「…テメェいい加減にしろやァァァ!!」
の一言のあと、気のせいかプチ、という何かがキレる音がして、部屋に土方の声が響いた。
「もー大声出さないで下さいよ暑っ苦しい」
「…ならテメェが離れりゃいーだろ」
「えー」
ここは土方の部屋。
只今午後の3時を回ったところで。
おやつの時間ですと言ってが団子を持ってきて、そのまま居座っているのだ。
が団子片手に背を預けている土方は、机に向かってペンを走らせている。
そう、この暑いのに、は自分の背中を土方のそれとぴったりくっつけて、庭を眺めているのだ。
「土方さーん」
「…テメェ今俺が何してるか分かってんのか?」
「…仕事ですかね?」
「…じゃぁは何でここにいる?」
「非番だから」
「…」
怒鳴るのを諦めたのか、溜め息を一つ吐くと目線を書類へと写した。
「大体何で私と土方さんって非番一緒にならないんですかねー」
つまんない、と付け足して更にその背中に体重をかける。
そうなのだ。
真選組が結成されてから年月は結構経っているのだが、未だ二人の非番が重なったのは片手で数えるくらいしかない。
「…副長と一番隊副隊長が両方いねェってのもマズイだろが」
確かに副長が居ない時に代わりが勤まるのは一番隊隊長であり、そうすると一番隊隊長の代わり、
つまり沖田の代わりが勤まるのは副隊長であるという訳で。
「(じゃぁ土方さんがわざとズラしてんのかなァ…犯人見っけ)」
でも花見の時なんか真選組総出で屯所空にするくせに、と呟いた声は小さくて。
「あ?」
「…私って一応頼りにされてるって思っていいんですかね?」
「…ばーか、あたりまえだろが」
「(うわちょっと嬉しい)」
そしてまた土方は仕事へ、は庭眺めへ。
暑さの為全開にされた戸の外では、時々風を受けて風鈴が音を鳴らしている。
去年の夏祭りの時、二人で買った物で。
「(今年も、行けるといいなぁ。見廻りのついででもいいからさ。)」
普通のカップルみたいに、浴衣来て手を繋いで、なんて望まないから。
背中合わせくらいで、いいから。
だからどうか―
「土方さーん」
「…」
「ひーじかーたさーん」
「…んだよ、」
「土方さん、好きですよ」
「!っ、」
くるりと振り返れば目線は合って。
「あはは、土方さん顔真っ赤ー!!」
「…るせぇ」
またも机へと向きを変えてしまった土方の背めがけては思いきり抱きついた。
「っ!オイ!」
「土方さんは?」
「…は?」
「私の事好き?」
隣じゃなくてもいい。
一歩違うくらいで、私が後を追うくらいの距離でもいい。
だからどうかずっと側に居させて、
「…愛してる」
「え、何?聞こえな、」
そのあとされたまるで照れ隠しのような口付けに、全てを持っていかれたような気がした。
風と風鈴と願いひとつ
ガラでもない事をつい言ってしまったのは、きっとこの暑さのせいだ
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リクして下さったユイ様に捧げます。
遅くなってしまって本当にごめんなさい。
そして甘々というリクでした、のに…すみません、これが限界でした…
ちなみに一ヶ所反転あります 笑
では、ありがとうございました!
ローズドロップス/秋山美雨羅(070724)