「!……ホントにひいてる」

「…うるさいよ」

私が璃宮の部屋に入って最初に発した言葉は大丈夫?とか辛くない?という心配しているようなモノではなく、どちらかと言えば何風邪なんて引いてんの?と珍しいものでも見るような、少し小馬鹿にしたような類のモノだった。だってあの璃宮が。風邪?みたいな。

 

 

nursing my darling

 

 

「でもこれで璃宮が馬鹿じゃないって事は分かったわね」

「…後で覚えておいてよ、

ごめんごめん冗談よ、と付け足して買ってきた林檎とかスポーツドリンクの入った袋をベッドの横のテーブルに置く。

 

 

 

「…何で来たの?」

「え?非番だから?」

掛け布団から顔を半分だけ出した彼にそう問われ、でもそれは来てほしくなかったとかそういうニュアンスを含んでいなかったから、私もそっけなく答えてみる。

多分彼が聞きたかったのは"何故自分が風邪を引いた事を知っているのか"という事だと思う。

何故なら今日私は非番、しかし彼は仕事だったからだ。

そしてその答えはいたって簡単。

私が非番にもかかわらず、昨日法務省に忘れた私物を取りに行き、その時会った香我美と黒瀬に、璃宮が一度仕事に来たものの朝から具合いが優れなく、本人は大丈夫と言ったらしいが周りが説得して強制帰宅させたと聞いたからだ。だからこのお見舞い?はついで、みたいなノリ。

というのは嘘で、璃宮って変に強がりだしそのくせおぼっちゃまみたいなトコあるし、まぁ一人にしておくのが心配だったからなのたけれど。

 

 

 

 

「っていうか、何で呼ばないの?私今日非番だって、知ってたでしょ?」

ケータイに連絡くらい、くれればいいのに。

だって仮にも恋人でしょう?

もし私が昨日忘れ物をしなかったら?

今日それを取りに行かなかったら?

そしたら私、知ることが出来なかったよ。

璃宮がひとりで、苦しんでるのに。

 

 

 

 

 

 

「…せっかくの休日、潰したら悪いし」

「…いいわよそんな事」

「…うつしたら悪いし」

「…馬鹿じゃないの」

 

床に膝をついて、大分時間が経ったのかすっかり温くなったおでこの上のタオルを退かす。

外から帰ってきたから少しは冷たいかな、と自分の手を乗せてみると、そのおでこは結構熱かった。

病気になると人肌が恋しくなる、とか言うけど、あながち間違ってないかもしれない。璃宮の場合でも。

だってやっぱりどことなく心細そうに見えるし、甘えられたような気がする。

…手を、掴まれたから。

 

「今日はずっと居てあげるから」

「……」

今はまだ昼。ずっと、側に居るよ。

無理はしなくていいけど、治ったら明日は一緒に出勤しよう?

 

だから今日は。

 

 

 

 

「それに、璃宮のしてほしい事何でもしてあげる」

何でもいいよ。

何が食べたい?

作ってほしい?

林檎、ウサギさんにしてもいいよ、なんて。

 

 

 

 

…なのに。

「じゃ、キスして」

 

 

「…は?」

「人にうつすと治り早いって言うじゃない」

そう言うとえ?コイツ本当に病人?みたいな顔で、ニヤリと笑ってみせた。

…うわ。

 

「てか、さっき風邪うつすと悪いって言ったじゃない!!」

「そう思ったけど、きっとなら大丈夫だから」

「何それ!?私が馬鹿だって言うの!!」

全然元気じゃん!と思いながらも、後頭部にそえられた璃宮の手のせいでくっついたおでこは、やっぱり熱い。

…馬鹿。

 

 

「何でもしてくれるんでしょ?」

「…あのね、」

「!」

名前を呼ばれて、目が合ったらもう駄目なんだって、分かってるのに。

元々距離は近かったから、そのまま瞳を閉じて身をまかせれば、私達のくちびるは簡単に触れ合った。

 

そしてやっぱりそれも、何時もより熱かった事を、覚えてる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おはよーございます」

「あ、ちゃんおはよー」

璃宮の風邪も無事に治った様で、二人揃って出勤した。

 

 

ロッカー室へ向かう廊下で別れて着替えへ。

再び廊下を歩いていると丁度角から璃宮も出てきて。

 

「そーいえば、やっぱり風邪ひかなかったね。絶対うつったハズなのに」

「……」

何やっぱり私は馬鹿ですか。

ていうかさ、昨日もさ、…まぁそれなりの事しちゃったけどさ。

…風邪引いてるのに何であんな体力あるんだろうって思ったけど!

 

「どうせ馬鹿ですよー、じゃ私こっちだから、」

そう言って別れようとすると、手を、掴まれた。

昨日みたいに。

反射的に上を向けば、軽いキスが落ちてくる。

 

「…な、」

「…昨日はありがと」

不意打ちに呆けてる私を残して、また後で、と璃宮は自分の持ち場へ歩いていった。

私も振り向き歩き出したけど、昨日の会話を思い出してしまって、赤くなる顔をどうにかして冷まそうと必死で顔に手を当てた。

 

 

 

 

 

 

 

 

−ね、本当に風邪うつったらどうしてくれんの?

 

−そうだね…隅々まで愛して、治してあげる 

 

 

 

 

END・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

リクして下さった水無月様に捧げます!

遅くなった上に…璃宮の口調がちゃんとつかめてない…死

でも好きなキャラなのでまた書きたいです

ちなみにタイトルは文法的に間違ってますがゴロが良くなかったので… 苦笑

 ありがとうございました!ローズドロップス/秋山美雨羅 (070327)